白い猫

白い猫がいると思えばいいのかなと。肘をついて隣に座るリカを見ながらふと空井はそう思う。

素の彼女がひどく可愛いのはわかっていたが、自分の家で全くの素がこんな感じとは思わなくて目が離せない。

リカの携帯は休みの日でも割とよく鳴っている。メールの時も着信の時もあって、時々、眉を顰めたり笑っていたり、いろんな顔を見せてくれる。

「出なくていいの?」
「ん。いいです」

これからどうしようかという話をしている間に、なりだした電話をみてちらっと視線が彷徨ってから携帯を裏返した。
振動が続いて、まだ鳴っているのが気になって、いいの?と尋ねたのだった。

よほど気の長い相手なのか、ほとんどは留守電に切り替わるのに、一度止まった後にまた鳴り始める。

ちらっと画面を見たリカが渋い顔になったあともう一度携帯を置いた。

「でたら?」

くしゃっと顔をしかめた後、ごめんなさい、と言って携帯を掴むと立ち上がって、少し躊躇した後、台所の陰に逃げていく。

「もしもし。ちょっと今は……。いや、休みだけど……。わかってるってば」

声を落としてひそひそと話しているのが聞こえてきて、何か困っているらしい。立ち上がってリカの傍まで行くと、声を出さずに?と視線を向ける。

困った顔で、視線を彷徨わせたリカが、電話の相手にちょっと待って、といった。

「……ごめんなさい。母からで」
「お母さん?」

すっと手を差し出した空井はリカの手から携帯を取り上げた。

「もしもし。お電話代わりました。初めまして。リカさんとお付き合いさせていただいている空井と申します」

リカが止める間もなく、携帯に出た空井はさらりと挨拶を口にした。
それから、淡々と話をしてあっという間に会う約束を取り付けてしまう。

「ん」

差し出された携帯はまだ通話中で、呆気にとられたリカはそれを手にしてあの、と口を開いた。

『リカ。話は今伺ったから。空井さんと一緒に会いにいらっしゃい』
「あの、でも」
『じゃあね。あとで』

空井と母との間であっさりと話が進んでしまったらしい。一方的に電話を切られたリカがしゃがみこんだまま呆然と空井を見上げた。

「お母さん、会ってくれるって。今日、どうせ予定決めてるところだったし、ちょうどいいと思ったんだけど」
「……空井さん、空井さん、空井さん!勝手に何を」
「だって、どうせ近いうちにご挨拶に伺うつもりだったんですからいいじゃないですか」

さらりとそういって、リカの手を取ると、引き上げてリカを立たせた。

「聞かせてください。ちょっと初めに電話、出るの嫌そうにしてたでしょう?何かあったんですか?」

ひどく気まずそうになったリカが口籠る。

「それは……その……」

うーっとしばらく唸った後、俯いてしまったリカがぽつぽつと呟いた。

「その……連れてきなさいっていうから……」
「はい?」
「つ、お付き合いしてる人がいるって言ったら……、すぐに連れて来いっていう話になって、いつだったら連れてこられるのかってずっと……」
「言われてたんですか?」

松島から帰って、リカが母親に空井のことを話した後から、毎日のようにリカのもとへメールや電話が来ていた。
今まで、付き合っている人がいても、それをわざわざ母親に言ったことなどなかった。だからこそなのか、すぐにでも連れて来いと1週間言われ続けていたのだ。

「詳しくはまだ言ってないので……。空井さんに会ってから話をしようと思っていたので……」
「なんだ。早く言ってくれればよかったのに」

ぽんぽん、と抱き寄せたリカの背をやんわりとあやすように叩く。

「なんか、だって……」

―― ああ、ほんとに真っ白な子猫みたいだ

ようやく馴染んだと思ったのに後ずさりしようとする。
顔が見られる程度に緩めた腕の中で、子猫にむかってゆっくりと口を開いた。

「はい。すいません。僕がせっかちだから。でも、もう待てないと思ったし、一緒にいたかったから」

駄目ですか?と問いかけられれば否とは言えない。本当は、すぐにでも結婚したいくらいなのだ。
おずおずと顔を上げたリカが不安そうな目で見上げてくる。

「なんか……。一緒にいることじゃなくてやらなくちゃいけないこととかが先に来るのは、ちょっと嫌だったんです」
「そんなこと考えてたんですか?」

ふっと笑った空井は、今度こそぎゅっとリカを抱きしめた。

「一緒にいるために、ちゃんとしたいんです。だって、リカさんのお母さんですよね。だから、挨拶も大事にしたいですよ」

そういって、わざと耳を甘く噛むように話しかけた。

「っ!!」

昨日、どうやら弱いらしいことを発見しての確信犯だ。
ぱっと逃げそうになったリカを逃がさないように引き寄せる。そして、小さく何かを囁いてから、そろって出かける支度を始めた。

しばらく、化粧をする間も顔が真っ赤になったリカが動揺して何度もやり直している姿にくすくすと何度も空井が笑った。

『早く出かけて、お母さんに許してもらって、早く帰ってきて一緒にいっぱいベッドにいたいです』

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