未完成ロマンス 6

「ん……?」
「おはよ」

朝早く出かけることにしていたからしゃべるだけしゃべって、そのまま眠ってしまったリカを結局、甘やかして寝かせてしまった。
時計を見たリカが、はっとして起き上がる。すでに9時を過ぎている。

「!!起こしてくれればよかったのに……!」
「だって、あんまり気持ちよさそうに眠ってるから、つい、ね」
「~~っ」

慌ててベッドから起き上がったリカがばたばたとキャリーから着替えをひっぱり出す。遅れてベッドから抜け出した大祐がぽんぽんとリカの髪を撫でた。

「いいよ。ゆっくり行こうよ。落ち着いてシャワーして来れば?」

くるっと振り返ったリカが少しばかり恨めしそうな顔をして大祐を見上げた。

「……大祐さん、本当は初めからゆっくり出かけるつもりだったでしょ」

無理をして休みを作ってくるはずのリカを少しでもゆっくり休ませようと思っていたから、久しぶりに会っても、キスだけでたくさん話して。
それから、深く眠っている寝顔を眺めた。

時々、顔を顰めているから腹の立つことでも夢に見ているのかもしれない。相変わらず、肩に力を入れて頑張ってるのかなと思いながら、眉間に人差し指を押し付けてくいっと押すと、ふにゃっと顔が緩む。

その顔が可愛すぎて、くすっと笑ってしまった。

「そんなことはないよ?ただ、夜中に目が覚めちゃって、そこから二度寝したから俺も寝坊したんだってば」

絶対無駄だと思いながらもそんな言い訳を口にする。ため息をついたリカが諦めたのか、着替えを握りしめていた手を膝の上に置いた。

「私、……邪魔しちゃった?」
「馬鹿だな。そんなことないよ。いいから支度しよう?」

夜中に起こしたのが、隣で眠っていた自分だったのかと気にしたリカを宥めるように大きな手が撫でる。もう一度時計を見て諦めたのか、こく、と頷いたリカが髪を洗うと言ってバスルームに消えた。

4日間。
一緒に寝起きするだけじゃなくて、ずっと一緒である。それを考えれば少しぐらいリカを寝かせておくくらいなんでもない。

ただ、一緒にいられることが嬉しくて仕方がないのは大祐も一緒だったのだ。
朝食を家で食べるにはさすがにどうかと思った大祐は、冷蔵庫からミネラルウォーターを持ってきてリカが戻ってくるまでもう少しぼーっとすることにした。

シャワーを終えたリカと入れ替わりにバスルームに入った大祐は、いつになくゆっくりとシャワーを浴びる。浮かれている自分を自覚していたから少し落ち着こうと思っていたのもあった。

髪を洗ってバスルームを出てきた大祐は、着替えてから支度をしていたリカに目を向けてから違和感を感じて、思わず二度見してしまう。
化粧を終えて、まだ少し濡れたままの髪を整えたリカが振り返った。

「大祐さん、珍しくゆっくり」
「……リカ?」
「ん?」

乾ききっていない髪はどうやらわざとらしく、甘いムースか何かの香りがする。いつもよりもふわりとゆるく巻かれたような髪を揺らして、リカが立ち上がると目を見開いた大祐が口元を押さえて後ずさる。

「大祐さん?」
「……か……」
「か?」

訝しげな眼を向けられたリカが、ああ、と自分の足元に視線を落としてその服を摘まんで見せた。

「珠輝に勧められて、たまにはどうかなって……。仕事の時はこんな服、邪魔になるから着られないし、そうなると着る機会もあんまりないんだけどたまにはいいかなと思って。似合わない……よね?」

ずるっと、一歩後ろに下がった大祐が顔を上げてもまだ固まったままなのを見たリカがよほど似合わないかと不安を覚えながら大祐に手を伸ばした。反射的にもう一歩後ろに下がろうとした大祐ががつっとパソコンテーブルの足に引っかかって下がれなくなる。

「や、やっぱり着替えるっ」
「違っ!!」

よほど似合わないのかと思ったリカが、恥ずかしくなって着替えようと背を向けそうになったところをぱしっと大祐が腕を掴んだ。

「か……、可愛すぎ……」
「……はい?」
「だ、だって、リカがスカートってほとんど初めてみたいなものだし、まして、なんかそんな恰好っ」

衝動的にリカを抱きしめた大祐はふわっといつになく甘い花のような香りに惑いそうになる。
パタパタと力任せに抱きしめられたリカが大祐の背を叩いた。

「ちょ、大祐さん!苦しいってば」
「あっ!ごめん」

慌てた大祐が腕を緩めると、リカの肩口に顔を埋める。甘い香りに堪らなくなって首筋に吸い付いた。

「んんっ!……大祐さんっ」

首筋から耳の後ろまで唇が這い上がって、耳たぶを柔らかい唇がそっと食んだ。唇の間に挟み込んだ耳たぶを舌でなぞる。
ぞくぞくっと這い上がるような感覚にリカが首を竦めた。

「だって……。スカートだからってことじゃなくて、なんか、もうめちゃくちゃ可愛いんだよ」
「だからってっ!……駄目だってば!」
「わかってる。わかってるからちょっとだけこうしてて!」

長身同士、部屋の中で立ったまま抱きしめあって、何をしているんだろうと、自分自身でも恥ずかしくなる。
それでも、耳元でもう少しだけ待って、と小さくねだられては嫌と言えない。

叩いていた背中にそっと手を回していると、深いため息が聞こえてようやく大祐がゆっくりとリカから離れた。
目元が薄ら赤いのがますます恥ずかしいのか、リカとは視線を合わせようとしないまま、顔を逸らす。

「あー……。もう、馬鹿みたいだけど!」

くしゃっと濡れた髪をかき上げた大祐が片手で顔を押さえてリカの方を見ないようにしながら呟く。

「ちょっと待って。もう……、ただでさえ俺、4日も一緒にいられると思って浮かれてたのにやばい……」

大祐の動揺があまりに大きくて、自分自身の姿を見る。そんなにインパクト強かったかな、と思いながら大祐にそっと寄り添うと、ようやく大祐が視線を向けた。

「……私も、すごく楽しみにしてたんだけど」
「……うん。どうしよう。俺、……ちょっと今日おかしいかも」

ぷっ。
さすがにリカが笑い出した。こんなにも動揺する大祐を見たのは初めてな気がする。

「……いいよ、もう」

情けないとは思ったが、笑われようと何をしようと可愛いものは可愛いし、浮かれていることは浮かれている。
開き直った大祐がちらりとリカを見ると片腕でその腰を引き寄せた。さっき悪戯した耳とは反対側の耳の後ろにちゅ、とキスの跡を残す。

「っ!」
「仕返し。……じゃあ、いこうか」
「もう……」

今度はすぐに離れた大祐にリカが小さく文句を言う。苦笑いし合ったあと、互いに出かけるためにバックを手にした。

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