未完成ロマンス 10

大きな風呂はさすがに気持ちよくて、人のいない風呂を楽しんだ後、繋がっている露店風呂にも出てみた。大きな風呂に浸かった後だからか、表に出ると涼しく感じる。タオルをおいて、岩風呂の中で伸びをすると体を洗ったのになんだか体の奥がまだ滑っているような気がして、無意識に足を擦り合わせた。

―― やだ……

まだ、物足りないと自分の体が主張しているようで恥ずかしくなる。初心な娘ではないが、さりとて、比較ができるほど経験豊富なわけではない。それでも、どちらかと言えば大祐の愛し方は深い気がする。

包む込むように抱きしめるときがあれば、何かをぶつけるような愛し方をするときもある。

どちらも、大祐の溢れるような想いでいっぱいになるから怖い時があっても、受け止められるのだ。
深くなればなるほど、好きだという想いが何層にも重なって、どんどん好きになる。

―― 夫婦になったのに、こんなのって変かもしれないけど……

「好きって言ったら驚くかな……」

きっと目を丸くして、思い切り照れるだろうか。そんな顔が思い浮かんでくすっと笑いだす。そろそろかな、と湯から出て支度を済ませた。
すっぴん姿で浴衣を着直したリカが女湯から出ると、少し離れたところの湯上りどころに腰を下ろしている姿が見えて小走りに近づいた。

「お待たせしました」
「おかえり。リカも休めば?ここ、冷たい牛乳もらえるよ」

湯上りで上気したリカを見る目が優しい。大祐の隣に座ると、セルフサービスで冷たい牛乳か、冷たいお茶がもらえるらしく、少し迷ってから冷たいお茶の方へ手を伸ばす。

「……お茶にします」
「牛乳、嫌い?」

すでに空になった牛乳の入っていたコップを持ち上げて見せると、リカが気まずそうに視線を逸らした。

「嫌いじゃないけど……。お腹壊しちゃうからやめとく」
「そうなの?!」

確かに、冷たい牛乳が苦手な人には確かに多いが、好き嫌いがなさそうなリカが子供みたいなことを言うことに驚いてしまう。

「え、リカ、冷たい牛乳でお腹壊すの?」
「そこ、畳みかけるところじゃないから!」
「だって意外……」

ぼそっと呟いた後、我慢できなくなった大祐が笑い出した。

「笑わないでっ!」
「ご、ごめん!でも、ぶぶっ、可愛いすぎ……」
「ひどーい!」

軽くぶつ真似をしたリカの手を押さえて、両手でぽんぽんと包み込むと手を握る。
どこまでも可愛くて仕方がなくて、こんな時間が楽しくて仕方がなかった。

売店を冷やかした後、夕食を終えて部屋に戻ってくると、大きなテーブルは動かされて、部屋の真ん中に布団が二組敷いてあった。

「ふわ……」

布団の上に膝をついたリカがぱたりと倒れこむ。

「食べ過ぎた~……」
「確かに、お腹いっぱいだね」

普段の二人の食事からすると、旅館の食事はデザートまで食べてしまえば苦しいくらいだ。ビールも飲んでいるので、途中で早々にリカはギブアップを宣言していたが、それでも普段よりは食べた方である。

ゆっくりと起き上がると、布団の上に座ったリカがへへっと大祐の顔を見上げた。

「こんなに食べたの久しぶり」
「そうだね。いつものリカだったら今日食べたご飯の半分も食べないよね」

子供相手のように、よく食べたね、とリカの頭を撫でた。リカが浴衣の袂から大祐が売店で買ってくれた可愛らしい鈴のついたストラップを取り出した。

「ふふ。可愛い」
「リカさんに初めてねだってもらった気がするよ」
「そうかな?」
「そうだよ」

売店を見ていた間に、小さなストラップを見つけて、それは確かに可愛らしいものだったが、特別なというよりどこにでもありそうなものだった。それでも、初めて一緒に出掛けた記念になるかな、と見ていたリカの傍から大祐が手を伸ばした。

「これがいいの?」
「あ、うん……。可愛いなって」
「買ってあげるよ。このくらい買わせて?」

そんなやりとりで手にしたものが嬉しくて、つける場所を迷った挙句、化粧ポーチにつけた。ほろ酔いのリカに、大祐が手を差し伸べる。

「リカ。お風呂いかない?」
「ん?いいですよ?」
「よかった。露天風呂の貸切、予約してたんだ」

小さな露天風呂が三つほどあって、それぞれ予約ができるようになっている。時間制だが、旅館に入ったのが早かったので、好きな時間を選べたのだ。

「露天風呂?」
「うん。貸切だから一緒にいこう」

そういえば、来た時に貸切があると案内されていた。いつの間にと思いながらも、頷くと、そろって籐籠を手に露天風呂にむかった。

途中から庭下駄を履いて、廊下の先にでると、それぞれ離れた場所にある露店風呂の一つに入った。入り口で使用中の札を出すと、中は、着替えをする脱衣所だけは囲われているが、風呂は川沿いに面していて半分だけの囲いになっていた。

浴衣を着たままで一度、中を覗いたあと、我に返って恥ずかしくなったリカが着替えに手間取っている間に、大祐が先に入っていった。

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